貯蓄200万円の60代夫婦は大丈夫?持ち家・年金暮らしの現実と今からできる老後対策

監修者・竹村 直浩

会計事務所での経験を基にキャリアを開始。
約30年間にわたり、データベースマーケティング、金融、起業、BPO業務、新規事業立案に従事。
資金調達や財務管理にも精通し、現在は自ら代表を務める会社を経営しながら、経営管理や新規事業立案の業務委託も請け負う。

「持ち家があるから老後は安心」と思っていたのに、貯蓄が200万円しかないと不安が募る——そんな声は少なくありません。年金収入だけで本当にやっていけるのか、どの程度の支出を想定すべきかを知ることが、これからの暮らしを安定させる第一歩です。本記事では、実際の生活費のデータと対策方法を基に、安心できる老後の現実像を分かりやすく紹介します。

60代夫婦の平均的な貯蓄額と年金収入の実態

60代の平均貯蓄額と現実の差

総務省の家計調査によると、60代世帯の平均貯蓄額は約1500万円ですが、実際の中央値は約900万円です。つまり、半数以上の家庭が1000万円未満の貯蓄で老後を迎えています。貯蓄200万円という金額は決して特別ではなく、教育費や住宅ローン、親の介護などが重なった世帯ではよくある状況です。

年金収入の平均と実際の受給額

厚生労働省のデータによると、夫婦2人の標準的な年金収入は月22万円前後です。夫の厚生年金が14万円前後、妻の国民年金が5万円程度となっています。しかし、退職時期や保険料の納付期間によって、18万円台に下がるケースも少なくありません。

下の表は、年金受給額の目安をまとめたものです。

世帯タイプ年金月額(平均)年金月額(低所得層)
厚生年金+国民年金の夫婦約22万円約18万円
国民年金のみ(自営業夫婦)約13万円約10万円
片働き世帯(妻が専業主婦)約20万円約16万円

平均額と実額の差が生活の余裕を左右する要因となっており、同じ60代でも暮らし向きには大きな差が生まれています。


夫婦2人が年金だけで暮らす生活費のシミュレーション

支出モデルとバランスの現実

住宅ローンを完済した持ち家世帯を想定した平均的な支出をまとめました。

支出項目月額(円)内容
食費65,000自炊中心、外食を控えめに
光熱費25,000季節変動あり
通信費15,000スマートフォン2台+ネット代
医療・保険12,000通院・薬代など
交通・交際費20,000趣味・冠婚葬祭など
日用品・雑費10,000生活必需品
その他8,000予備費など
合計155,000円

年金が22万円ならば毎月約6万円の余裕がありますが、これはあくまで平常時の話です。
家電の買い替え、医療費の増加、冠婚葬祭などの出費が重なると、すぐに赤字に転落する可能性があります。

貯蓄200万円では何年もつ?

毎月2万円の赤字が続いた場合、200万円は約8年半で尽きます。加えて、物価上昇が年2%続けば生活コストは10年で約1.2倍に。実質的な生活の圧迫は避けられません。

以下は、物価上昇を考慮した支出シミュレーションの一例です。

年数経過支出想定額(月)年間支出総額貯蓄残高(200万円スタート)
現在155,0001,860,0002,000,000
5年後(物価2%上昇)171,0002,052,000940,000
10年後189,0002,268,0000(底をつく)

結論:貯蓄200万円では、10年持たせることは極めて難しい。


持ち家の有無で変わる老後の生活費

持ち家でも維持費は必ずかかる

住宅ローンが終わっていても、固定資産税や修繕費が発生します。屋根や外壁の塗り替え、給湯器の交換など、年平均で10万円〜15万円の維持費を想定しておく必要があります。

項目頻度想定費用
外壁・屋根の塗装10〜15年ごと100万円前後
給湯器の交換約10年ごと20万円
トイレ・風呂の修繕10〜15年ごと30万円
庭木・外構整備毎年3万円

「持ち家=安心」と考えがちですが、実際には継続的な支出が伴う資産です。

賃貸のメリットとデメリット

一方、賃貸の場合は修繕費が不要ですが、家賃を払い続ける必要があります。地方では月6万円前後、都市部では10万円を超えることもあります。家賃補助がない年金生活では負担が重く、長期的に見ると持ち家の方が有利になるケースが多いです。


年金だけでは足りない場合の対策

働いて収入を補う方法

定年後も働くことで、月5〜10万円の収入を得ることができます。以下は、シニア世代が取り組みやすい仕事の例です。

職種平均月収特徴
シルバー人材センター3〜5万円体力に合わせた仕事
パート・短時間勤務6〜10万円スーパー・清掃など
在宅ワーク2〜6万円PCがあれば可
地域ボランティア・報酬型1〜3万円社会参加にも有効

収入を補うだけでなく、社会とのつながりを保つことにもつながり、メンタル面の安定にも効果的です。

固定費の見直しが最も効果的

支出の中で削減効果が大きいのは、通信費と保険料です。格安SIMに変更するだけで年間6万円前後の節約になり、不要な保険を整理することで年間10万円以上の削減も可能です。また、電力・ガスの自由化を利用して契約プランを見直すと、毎月1000〜2000円の節約が見込めます。

公的支援制度の利用

高齢者世帯が利用できる公的支援制度には次のようなものがあります。

制度名内容条件
高額療養費制度医療費が一定額を超えると還付健康保険加入者
介護保険介護サービスを一部負担で利用可65歳以上
老齢加算・特別支給所得が少ない世帯に加給低所得世帯
生活保護最低生活費を補填資産・収入基準あり

こうした制度を知っておくことが、「困ったときに助けを得る力」になります。


老後に向けて今からできる備え

医療・介護のリスクを見据えた準備

高齢期に増える支出の多くは医療・介護関連です。高額療養費制度を理解しておくと、入院時の自己負担が大幅に軽減されます。介護サービスを利用する際は、地域包括支援センターに相談し、費用の見通しを立てておくと安心です。

生活費の可視化と家計改善

家計簿アプリを使うと、支出の「見える化」が進み、無駄な出費を減らすことができます。月の支出を把握するだけで、年間で数万円の節約につながります。「気づく」ことが最大の節約効果を生むのです。

将来への資産形成を少しずつ

老後にリスクを抑えて資産を増やすには、安全性の高い金融商品を選ぶのが基本です。定期預金や個人向け国債、つみたてNISAなどを活用すれば、リスクを抑えながら安定的に資産を積み上げられます。


まとめ

60代で貯蓄が200万円という状況は、決して珍しいものではありません。年金だけでは不安でも、支出の見直しと収入の工夫で安定した暮らしは十分に可能です。 持ち家の維持費や医療費を見据え、早めの準備を始めることが安心な老後への第一歩となります。
老後の不安を軽減する最大の方法は、「現状を正確に把握し、行動に移すこと」です。未来の安心は、今の選択から始まります。

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